自己顕示欲は弱いほうがいい

自己顕示欲という言葉をご存知でしょうか。自分の存在を社会の中でアピールしたい、認められたいという欲求のことです。これは食欲や睡眠欲と並んで、人間には基本的な欲求のひとつです。ですから誰しもこの自己顕示欲を持っているのですが、これがあまりにも強すぎる人はあまり看護師に向いているとは言えません。看護師の仕事とは縁の下の力持ちといった要素が強いので、必ずしもこの自己顕示欲が満たされるとは限りません。自己顕示欲があまり強くないほうが看護師に向いていると言えます。
看護師という仕事はサービス業のようでありながら、実はサービス業とは一線を画したところがあります。もちろん患者様の要求に応えるという点ではサービス業に近い部分があるでしょう。しかし、お客様の要求を100%満たそうとするサービス業とは似て非なるところがあります。
例えば、ファミリーレストランや高級ホテルのことを考えてみましょう。こういった職場ではお客様の要求に100%応えることが良しとされています。もちろん無茶な要求には応えることができません。しかし100%要求に応えようとするファミリーレストランであれば、頼めば何か特別メニューを出してくれるかもしれません。高級ホテルであれば、彼女の誕生日を祝いたいということを告げれば、何か特別な演出をしてくれるかもしれません。こういったサービス業では、お客様のわがままにも出来る限り対応するのが素晴らしい接客だとされています。
しかし、看護師という仕事はそうはいきません。ときには患者様の要求を退けなければならないこともあります。例えば、リハビリのために自分の足で歩くことが必要な患者様がいたとします。その患者様が車椅子を用意してくれと言ったらどうでしょう。それに応えることが患者様のためになるでしょうか。本当に患者様のことを考えるならば、車椅子は出せません、自分の足で歩いてくださいと言わなければならないでしょう。これが看護師の仕事が接客業とは決定的に違うところです。
こんなふうに、看護師の素晴らしい仕事は、患者様からするとなかなか目に見え辛いものがあります。サービス業であればお客様の要求に応えれば応えるほど喜んでもらえます。しかし、看護師の仕事は、ときには喜ばれないこともやらなければなりません。それが患者様のためなのですから。しかし、そのことがなかなか患者様に伝わらないことがあります。患者様によっては看護師に悪態をつくかもしれません。そういった意味で、人のためにという気持ちが理解されにくいのです。それでもきちんと看護師としてやっていくには、あまり自己顕示欲が強くないほうがいいのかもしれません。